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不要な差額ベッド代を払わないために必要な基礎知識【保存版】

  • 公開日:2016年03月15日
    最終更新日:2022年03月03日
  • 医療保険

2022-03-03

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あなたやご家族が入院したときに、差額ベッド代が多くかかって困ったことはありませんか? あるいは、今まさに高額な差額ベッド代を請求されて困っているという方もいるかもしれませんね。
設備が整った病室で快適な入院生活を送りたいという人にとっては特に問題ないかもしれませんが、あまり医療費をかけたくないと思っている人にとっては、差額ベッド代は払わなくて済むなら払いたくない費用なのではないでしょうか?

本来、差額ベッド代は、患者の希望によって利用した場合に請求されるものであり、患者の同意なしに支払いを強制されるべきものではありません。入院費用をできるだけ抑えるためには、差額ベッド代がどのようなもので、どのようなときに支払わなければならないかをあらかじめ理解しておくことが大切です。

※2019年1月30日 差額ベッドの統計データ、厚労省の通知を更新

1. 差額ベッド代がかかる病室とは?

差額ベッド代は、正式には「特別療養環境室料」といいます。特別療養環境室とは、入院環境の向上を図り、入院患者がより快適な入院生活を送れるように設置された病室です。いわゆる大部屋といわれる一般の病室と違い、室内にトイレや洗面台、冷蔵庫、テレビなどの設備がそろっています。

特別療養環境室は基本的に患者の希望により選ぶ病室で、健康保険が適用される入院料とは別に料金がかかり、全額患者の自己負担となります。

なお、以下では特別療養環境室を正式名称ではなく「差額ベッド室」と、特別療養環境室料は「差額ベッド代」と表記することを基本とします。

1-1. 差額ベッド室の要件

いわゆる差額ベッド代がかかってくる差額ベッド室は、厚生労働省の通知により、療養環境について以下の4つの要件を満たさなければならないことになっています。

  1. 病室の病床数(ベッド数)は4床以下である
  2. 病室の面積は1人当たり6.4平方メートル以上である
  3. 病床ごとのプライバシーを確保するための設備を備えている
  4. 少なくとも「個人用の私物の収納設備」、「個人用の照明」、「小机等及び椅子」の設備がある

1-2. 差額ベッドを設置できるのは5割まで

各病院が設置できる差額ベッドの数は、同じく厚生労働省の通知により上限が示されています。これによると差額ベッドを設置できるのは全ベッド数の5割(国が開設する病院は2割、地方公共団体が開設する病院は3割)までとなっています。

したがって、原則どの病院でも保険診療の範囲内で入院できるベッド数が最低半分はあるはずです。

それでは、実際に差額ベッドはどれくらいあるのでしょうか? 厚生労働省の中央社会保険医療協議会の会議資料(令和3年9月)によると、全ベッド数のうち差額ベッドの占める割合は19.9%となっています。5割の上限にはまだ差がありますが、差額ベッドを希望する人が5人に1人いなければバランスが取れないことになります。

■総病床に占める差額ベッドの割合

区分割合
1人部屋13.6%
2人部屋3.1%
3人部屋0.3%
4人部屋2.9%
合計19.9%

※令和2年7月1日現在

(出典)中央社会保険医療協議会 令和3年9月 第488回総会 議事次第より

2. 差額ベッド代はいくらかかる?

差額ベッド代は各病院が料金を設定できるようになっていて、病院によっては料金に差があります。ちなみに厚生労働省の中央社会保険医療協議会(令和3年9月)のデータによると、1日あたりの差額ベッド代の平均額は6,527円となっています。なお、最低額は50円、最高額は385,000円です。

■1日あたりの差額ベッド代(推計)

区分料金
1人部屋8,221円
2人部屋3,122円
3人部屋2,851円
4人部屋2,641円
全平均6,527円

※令和2年7月1日現在

(出典)中央社会保険医療協議会 令和3年9月 第488回総会 議事次第より

平均額でみると、個室でも1万円未満ですが、特に都内の病院などでは1日あたり数万円かかる病室も珍しくありません。以下に、都内の病院の差額ベッド代の例をあげておきますのでご参照ください。

■都内の病院の差額ベッド代

部屋の種類A(私立大学病院)B(企業系列の病院)C(民間の総合病院)
特別個室35,000~80,000円38,000~120,000円
一般個室6,000~31,000円25,000円19,440~32,400円
2人部屋10,500~12,000円8,640円
4人部屋6,000円0円1,080円

※LHL調べ(平成30年1月時点)

3.差額ベッド代の支払いが必要なケース

患者がより快適な入院生活を望んで差額ベッドの病室を希望していて、病院から差額ベッド室の設備、構造、料金についての説明を受けて同意書にサインし差額ベッド室に入院した場合は、差額ベッド代の支払いが必要になります。

患者の希望があるかどうかという証拠として、同意書はとても重要な書類になります。病院側の説明をきちんと聞かずに、あるいは同意書の内容をよく確認せずにサインしてしまったとしても、同意書にサインしたという事実が残りますので、差額ベッドを希望しない場合は、意思に反して同意書にサインしてしまわないように注意する必要があります。

大部屋は満室なので個室に入ってくださいといわれて同意書にサインした場合も、病院の説明に納得して差額ベッドを利用したということになりますのでご注意ください。

4.個室でも差額ベッド代がかからないケース

個室などの差額ベッド室に入院した場合でも、差額ベッド代がかからない(請求されない、払わなくてよい)ケースがあります。厚生労働省の通知では以下のようなケースでは、差額ベッド代を請求してはならないと示されています。

(1) 同意書による確認が行われていない場合
患者が同意書にサインしていない、あるいはサインをしたとしても同意書の説明内容が不十分な場合(差額ベッド代の記載がないなど)は、病院は差額ベッド代を請求できません。

(2) 患者の治療上の必要により差額ベッド室に入院させる場合
以下のような患者には差額ベッド代は請求できません。

  • 救急患者、術後患者等で病状が重篤なため安静を必要とする者、または常時監視が必要で、適時適切な看護及び介助を必要とする者
  • 免疫力が低下し、感染症にかかるおそれのある患者
  • 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
  • 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者
    (患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く)
  • クロイツフェルト・ヤコブ病の患者
    (患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く)

(3) 病棟管理の必要性等から差額ベッド室に入院させた場合(患者の選択ではなく)
たとえば、感染症の患者で、他の患者への院内感染を防止するために、患者の希望によらず差額ベッド室に入院させた場合は、差額ベッド代を請求できません。

また、(2)(3)の理由により差額ベッド室に入院していた場合でも、その必要性がなくなったときは、患者の意思に反して差額ベッド室への入院が続けられることがないように、あらためて同意書による意思確認を行うなどの配慮をしなければなりません。

5. 差額ベッド代を不要にするには

医療費を抑えたくて差額ベッドを利用したくない、差額ベッド代を負担しなくてもいいようにしたいという人の場合は、入院時に大部屋を希望していることを意思表示し、差額ベッド室利用の同意書にサインをしないということで、基本的には差額ベッド代を支払う必要性はなくなります。

ただし、やっかいなのは大部屋が空いていないという場合です。入院が急を要さない状況であれば、大部屋が空くのを待ってから入院とすることもできますし、入院する病院にこだわらないのであれば大部屋に空きのある他の病院に入院するということもできます。
また病院によっては、大部屋がよいという意思表示をすれば、差額ベッド代がかからないように、あるいはかかってもできるだけ少額ですむように配慮してくれるところもあるでしょう。しかし、病院スタッフとの関係が悪くなったり入院を拒否されたりするようなトラブルが発生することも現実にはあるようです。

すぐにでも入院治療が必要な場合やどうしてもその病院で治療を受けたい場合などは、大きなトラブルにならないように、病院側の対応をみながら柔軟に判断することも大切です。その場合でも、大部屋が希望であること、経済的に差額ベッド代の負担が厳しいことを冷静に伝えておくようにしましょう。また差額ベッド代は、病院によって数千円から数万円と幅があります。その病院の差額ベッド代がいくらかは、必ず確認しておきましょう。

6.差額ベッド代は高額療養費制度の対象外

健康保険では1ヵ月の医療費の自己負担額の上限が決まっていて、その上限を超えた場合は、超えた金額が戻ってくる高額療養費制度があります。しかし、差額ベッド代は健康保険適用外の費用なので、高額療養費の対象にはなりません

7.差額ベッド代は医療費控除の対象になるか?

自分や生計をともにする家族のために支払った医療費が年間に10万円を超えた場合は、所得税の計算において、その超えた金額を所得から差し引くことができる医療費控除という制度があります。差額ベッド代は、この医療費控除の対象となる医療費に含まれるのでしょうか?

7-1.対象とならないケース

国税局のサイトには、「本人や家族の都合だけで個室に入院したときなどの差額ベッドの料金は、医療費控除の対象になりません」と明記されています。

自分で差額ベッド室を希望して入院した場合は、その差額ベッド代は医療費控除の対象になりません。

7-2.対象となるケース

対象とならないケースの逆として、“本人や家族の都合だけ”でなければ医療費控除の対象となります。

ただし差額ベッド代は、本来、患者が希望していて病院の説明に同意した場合に支払うもので、希望していない場合はそもそも差額ベッド代の支払いがないのが原則です。そうであれば、対象となるケースは存在しないことになりそうです。

しかし現実には、本当は希望していないけど、大部屋に空きがないといわれて渋々同意して入院し、差額ベッド代を支払ったというケースもあります。そのような場合は“本人や家族の都合だけ”ではなく“病院の都合”もあったといえるでしょう。

そういったケースでは医療費控除の対象となる可能性があります。税金のことなので、ここでは明言はできませんが、税務署や税理士さんに事情を説明するとよいでしょう。

医療費控除の対象となる・ならないについて詳しくはこちらをご覧ください。
・「もう迷わない!医療費控除の対象になる費用、ならない費用

医療費控除のしくみについて詳しくはこちらをご覧ください。
・「医療費控除とは?|3分でわかる節税のしくみと申請までの手順

8.現在、請求されている場合の対応法

まさに今、差額ベッド代の請求をされていて困っている、何とかしたいという方は、以下のポイントを確認しましょう。

  • 入院時に差額ベッドの同意書にサインをしたか?(したorしない)
  • 差額ベッドを使用することになった理由は何か?(本人や家族の事情or病院の事情)

(1) 同意書にサインをしなかった

入院時に同意書にサインをしていない、つまり同意していない場合、病院は差額ベッド代を請求してはいけないことになっています。この点を指摘して病院と交渉するとよいでしょう。

(2)同意書にサインをした

入院時に差額ベッド室についての説明を受け、同意書にサインしている場合は、差額ベッド代がかかることを理解して納得したうえで入室したことになるため、原則的に支払い義務が生じます。
 ↓

  1. 差額ベッド室に入ることを希望していた
    自ら望んで、もしくは本人や家族の事情から個室に入った場合は、支払いが必要です。
  2. 差額ベッド室に入ることを希望していなかった
    もともと差額ベッドを望んでいなかった(大部屋に入りたかった)が、病院側から何らかの理由で差額ベッド室への入院を求められたという場合で、口頭ででも大部屋に入りたいという意思表示をしていた場合は、交渉してみるとよいかもしれません。その際は、厚生労働省の通知をもとに、本来、請求されるべきケースには該当しなかったのではないかということを明確に伝えましょう。どうしても話がまとまらず、しかも病院の主張が厚生労働省の通知に反していると思われるときは、各都道府県庁の保健医療を担当する部署か、厚生労働省の地方厚生局に相談してみましょう。
交渉時のポイント

  • 看護師や医師より事務の責任者と話をする
  • 厚労省の通知を見せる
     ※保医発0305第6号(平成30年3月5日)
      「12 特別の療養環境の提供に係る基準に関する事項」(P.14~)
  • トラブルになったら各地方の厚生局、都道府県庁の保健医療の担当部署等に相談する
    地方厚生(支)局一覧

9. まとめ:原則、差額ベッド代は希望しなければ払わなくてよい

差額ベッドは、入院環境の向上を図り、入院患者がより快適な入院生活を送れるように設置された病室です。基本的に患者の希望により選ぶ病室で、病院は患者の同意なしに差額ベッド室に入院させて差額ベッド代を請求することはできません。また、差額ベッドの同意がない患者を治療の都合で差額ベッド室に入院させた場合も、病院は差額ベッド代を請求することはできません。

このように差額ベッド代は、原則、希望しない限り支払う必要がない料金です。差額ベッドを希望しないのであれば、入院時によく確認しないまま差額ベッド代の同意書にサインをすることがないように注意しましょう。

しかし現実には、大部屋に空きがないなどの理由のもと、差額ベッドの同意書へのサインを強く求められる病院もあるようです。入院時に病院ともめるようなことは避けたいところだと思いますので、大部屋を希望しているという意思表示をしつつも冷静な判断が必要となります。

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