現代消費文化を斬る-若者が映画館から離れた「4つの理由」

  • 公開日:2020年02月17日
    最終更新日:2020年02月18日
  • レポート

2020-02-18

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現代消費文化を斬る-若者が映画館から離れた「4つの理由」

筆者が前回「若者の○○離れ」についてのレポート1を発表した日、奇しくもTwitterのトレンド上位に若者の○○離れが入っていた。調べてみると、若者の45%が映画館を利用していないから映画離れが起きているという旨の内容であった。前回のレポートから引用するならば、「消費させるだけの価値を若者に提示できていないだけ」の話である。本レポートでは、若者の映画離れについて日米比較をおこなった。その結果、アメリカの映画館市場は若者で支えられていることがわかった。アメリカと日本両国の映画という「娯楽」に対する認識を「価格」の視点から検証し、なぜ若者が映画館を利用しないのか、その理由を考えてみた。


1 現代消費文化を斬る-「今時の若いもんはなぜ消費しないのか」という問いに対する試論https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62515?site=nli

1. サブスクは本当にシネマのパイを食べているのか

時事通信社によると、10~20代の45%が映画館を「まったく利用していない」と発表した。一方で、「ネットフリックス」、「アマゾンプライム」といったサブスクリプション・サービス2の契約状況は好調で、前年度調査の15.7%から4.6ポイント増加の20.3%であった。この状況から、サブスクリプション・サービスの存在が映画館市場のパイを食べてしまっており、若者の映画離れを懸念するという声も聞こえるが、よく記事を読むと、サブスクリプション・サービスを契約している人のうち60%が「映画館やレンタル店」を必要だと答えている。

北米においても、過去12ヶ月に劇場で映画を鑑賞した本数が多い人ほど、サブスクリプション・サービスで消費する時間が大きい傾向にあったことが3、劇場所有者協会(NATO)の調査で分かった。同様に、劇場に足を運ばない人はサブスクリプション・サービスにも時間を使わないことも分かった。また、2018年中のアメリカにおけるケーブルTVや有料TVサービスの解約率が32.8%、3,300万件にまで登ったことから、サブスクリプション・サービスがパイを奪い合うのは、ケーブルTVや有料TVサービスの視聴者であると言及している。

一方米PostTrakの調査によると、北米における劇場観客の年齢比率は、18~24歳が27%で最大で、全体の49%の観客が24歳以下の観客であるという。日米間で若者の映画館に対する意識に差はあるが、それでもそれぞれの調査から、サブスクリプション・サービスが映画館市場のパイを奪うということに関しては、まだ断言することはできないと筆者は考えている。

他の視点から見てみよう。実際に映画館離れによって来場者数や映画館数は変化しているのだろうか。国内の映画製作配給大手四社の団体である一般社団法人日本映画製作者連盟が1955年から継続している調査をみると映画館利用者人口は1958年の11.27億人をピークに急速に入場者数は減少し、1970年後半以降はほぼ横ばいの形を崩していない(図表1)。

図表1 1955年以降の映画館入場者数の推移

近年においては、2011年震災の影響を受けたが、それ以降は上昇傾向が見られる(図表2)。映画館数(スクリーン数)においてもシネコンの台頭で映画館のスクリーン数は減少しているが、シネコンの増加でスクリーン全体の数では過去最多(1970年以降)となっている4(図表3)。

ここまでを整理すると、若者が「まったく映画館を利用しない」理由にサブスクリプション・サービスは直接影響を与えているとは断言できなく、またシアター数が減っているわけでもないこともわかった。では映画市場を牽引している北米の若者と映画館離れの傾向が見られる日本の若者にはどのような差があるのだろうか。

図表2 近年の映画館入場者の推移

図表3 スクリーン数、入場者数、平均料金の推移


2 定期購読が元々の意味で、製品やサービスなどを一定期間利用する事に対して、代金を払うシステムのこと。動画配信サービスにおいては、月額いくらで動画が見放題のサービスを意味する 3 https://theriver.jp/streaming-and-theaters/ https://variety.com/2018/film/news/streaming-netflix-movie-theaters-1203090899/ 4 公開本数が大幅に増加した一方で、入場者数の増加度合いは穏やかである点から映画1本あたりの平均入場者数が減少していると指摘する声もあるが利用者人口を維持していることには変わりない。 http://www.garbagenews.net/archives/2034792.html

2. 1900円は高い金額なのか

確かに映画料金は年々増加してきている。都心では1,900円(大学生料金1,500円)するところもある。しかし、1,900円が現代の若者にとって高額な金額かと聞かれたら首を傾げる。例えば、昨今ブームであったタピオカも、相場は500~700円近くと飲み物の単価としては高い部類に入る。バイトやサークル後に食べる意識の高そうなラーメンも、一杯1,000円が相場である。大衆居酒屋の飲み放題では、2,000~3,000円をかなり頻繁に消費している。彼らが映画に支出しないのは、お金に困っているからなのだろうか。

第54回学生生活実態調査によると、大学生の74.1%がアルバイトをしているという。彼らの中には学費、家賃や光熱費などを自身でまかなっている者もいる。また一人暮らしでなくても家計に収入を入れている者もいる。しかし、大部分のアルバイトをしている学生は、自分で自由に使えるお金を有しているのではないか。地方差もあり全体のアルバイト平均収入は月4万円前後といわれてはいるが、東京に限った調査では平均月5万円といわれている。それにプラスして、長期休みを利用して稼ぐ学生も多くいる。筆者も学生時代、所得税控除のラインである年間103万円ギリギリまで稼いでいたタイプの学生であり、不自由なく学生生活を過ごしてきた。

図表4 サラリーマンの平均お小遣い額

ちなみにサラリーマンの平均お小遣いが4万円以下(図表4)であることから、アルバイトをしている大学生の方が自由に使えるお金が多いことも考えられる。このことから筆者は、1,900円は若者にとって決して高い金額ではないが、待てばレンタルで数百円、地上波放送なら無料で映画が見られる現代において、1,900円という映画料金にその価値を見出していないだけであると考える。昔は映画館で見ることが付加価値そのものであったが、娯楽が溢れる現代において、若者はそのような認識を持っていないのだろう。3Dシステムや音響が強化されたシアターで見ることは付加価値といえば付加価値なのかもしれないが、付随して料金も上がる。「映画に使うなら他に使う」と若者に思わせないために、マーケティングにできることはあるだろうか。

3. 米国と比べて割高な日本の映画料金

日米の映画料金を比較してみよう。2018年の日本の全国の映画平均料金は1,315円であった。映画館を利用しない53.2%が価格を理由に映画館を利用しないと回答している5。都内の2019年の映画料金は大人1,900円、大学生1,500円と平均よりも高くなっている。

一方でアメリカ映画協会の調査によると2016年のものではあるが映画平均料金は$8.65(932円6)であった。この価格によって北米においては、数ある大衆娯楽の中で、映画が最も身近で手軽な娯楽としての位置づけを保っている。また、北米における平均的な家族のサイズが4人であることから、北米における大衆文化であるスポーツ観戦やテーマパークの4人分の入場料と4人分の映画料金を比較している(図表5)。この調査によれば、家族4人でも$35(3,770円)という低予算で娯楽を楽しめることが、生活者に映画館が根付いている要因の一つであるとしている。

都内で、家族4人(両親・中学生以下2人)で映画を見たとすると、大人1,900円が2枚、子ども1,000円が2枚で6,000円はかかってしまう。先日筆者自身も家族4人で久しぶりに映画館まで足を運んだが、大人4人で7,500円を越えていて驚いた。日本において映画は手軽な娯楽とはいい難い存在になっているのかもしれない。

図表5 アメリカの大衆娯楽の一家族(4人)のチケット料金


5 株式会社アスマーク映画に関するアンケート調査2011年10月25日~10月26日より引用 6 2019年9月27日でのレート

4. 価格から見る消費者の映画館利用における3つの比較

さて若者の映画離れの大きな要因として価格が高いことを挙げたが、何と比較して価格が高いのだろうか。まず映画料金そのものでの比較が考えられる。年々増加する映画料金に対して、消費者は、(1)過去の映画料金、(2)レイトショーなどの割引料金と比較している。確かに映画撮影の技術が向上するに伴い、製作コストは上昇しており、配給サイドの価格が上昇していることは容易に想像つく。また人件費の上昇など必要経費も増加している。しかし、消費者からすると、映画館で映画を見るという行為は変わらないのにも関わらず、価格だけが上昇しているという感覚なのである。ネットリサーチの「映画館に関する調査」7によると、一般的に1,000円を妥当な価格と消費者は感じているようである(図表6)。奇しくも、この1,000円と言う金額は、前述の米国の映画料金(932円)と同水準である。

図表6 映画館のチケット料金について打倒だと思う金額(大人一般料金)

図表7は簡略化した映画料金の内訳である。ベンチマークは過去の消費経験から消費者が生み出した映画に対する対価である。

図表7 簡略化した映画料金の内訳

映画館側は以前よりコストがかかっている。その結果、消費者の求めているベンチマークでは利益を産めないため、利益を確保するために、ベンチマークを上回る水準で映画料金を設定する。しかし、その構造を知らない消費者は映画館がただ利益のために料金を増加させていると知覚する。ベンチマーク以上の部分に関して消費者自身が妥当性を見出すことができない限り受け入れることはできないだろう。

またレディースデイやレイトショー、映画の日など正規料金よりも大幅に割り引かれるサービスが提供されており、割引料金で上映を行えるのならば、正規料金に対してなぜ割引料金で上映できないのかという、正規料金に対して「適正料金ではない」という疑いが生まれる。

次に消費者が行っている比較は、(3)映画を見るための手段との比較である。映画館以外で当該映画を見る方法はある。ブルーレイやDVDの販売を待つ、レンタルされるのを待つ、サブスクリプション・サービスを利用するという映画に対して対価を支払う方法もある。最新映画であれば飛行機で上映されているケースもあるため、他のサービスに付随するサービスとして鑑賞することも可能である。ここで比較されているのは「映画に対する関心度」と「手段にかかるコスト」の比較である。

彼らは「映画をみたいから」映画館やレンタルショップやサブスクリプション・サービスを利用している。そして、どの手段で「映画を観る」のかは、その映画に対する関心度によって決まるのである。その映画に対する関心度が高ければ高いほど、スクリーンが大きかったり、音響システムのよい映画館を利用する。関心度が低い映画に関しては、映画館が選好されることは少なく、他の手段が利用される。その手段を選好する際に「その手段にかかるコスト」が比較される。


7 http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2013/130601/

5. 映画デートの真意 -本当に映画がみたいのか-

筆者は以前空間における調査を行ったことがある。都内の大学生500人に対する調査8で、その項目の一つに映画館があった。その調査の結果大学生の47%が映画をデートに使っていると答えた。しかしながら、その中の68%がたまたま映画だっただけで映画でなくても良かったと答えている。また、女性誌のCanCamの「初デートで行きたい場所ランキング」調査においても男女共3位に映画館がランクインしている(図表8)。

図表8 男女別「初デートで行きたい場所ランキング」

このとき彼らが比較しているのは、映画館以外の代替サービス(施設)である。彼らの目的は映画を見ることではなく、「二人で時間を共有することにある」。2人で「時間を使うことができる場所」という数ある選択肢の中で、その利便性から映画館が選ばれてはいるが、もし他のカフェが空いていればカフェでもいいといえる。カフェならば1900円あればコーヒーにケーキをつけてもおつりが返ってくる。


8 対象者都内大学生2014年11月22日~12月17日まで実施(女性269人、男性231人)

6. 若者が映画館から離れた「4つの理由」

これまで述べてきた、映画館を利用する際に比較しているものを整理すると以下のようになる。

映画館を利用する際に比較しているもの

1,900円という価格は、これらの要因と比較された結果「高い」と思われていると筆者は考えている。消費者が適正価格だと感じる1,000円より900円高い現状において、ただ「映画を見る場所」という認識から消費者の意識を逸脱させない限り、この溝は開いていくばかりである。「消費させるだけの価値を若者に提案できるか」というテーマについて、より真摯な対応が求められているのだろう。

廣瀨 涼廣瀨 涼 (ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員)
<研究・専門分野> 消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア
我々の嗜好や趣味、願望や思い出といった無機質で実体のないものへの消費欲求を研究しています。

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