住宅や家財が被災してしまったら!「雑損控除」活用のしかた

2022-04-06

https://www.kurashino-okane.com/social-security-tax/casualty-loss-deduction/

台風による風水害が多かった2019年。今まで災害がなかったような場所にも甚大な被害を及ぼしました。住宅や家財、自動車などが被災した方も少なくありません。

今回は、災害で資産に被害を受けた場合に活用できる「雑損控除」についてご紹介します。

1. 雑損控除とは?

はじめに、「雑損控除」の概要について見ていきましょう。どんな場合に使えるのか、何が対象になるのかを解説します。

1-1. 災害・盗難・横領による損害に適用

雑損控除とは、納税者やその扶養家族の資産が損害を被ったときに使える所得控除(所得の合計金額から一定の金額を差し引く制度)です。

適用されるのは、震災、風水害、冷害、雪害、落雷、害虫被害など、自然現象による災害。また、火災や爆発など人為的な災害、盗難や横領なども対象となります。なお、詐欺や恐喝については適用されません。

雑損控除の対象となる損害
  • 震災、風水害、冷害、雪害、落雷、害虫被害など、自然現象などによる災害
  • 火災や爆発など人為的な災害
  • 害虫などの生物による災害
  • 盗難や横領

1-2. 対象は住宅や家財・自動車など

控除の対象となるのは、住宅や家財のほか、自動車や自転車など、生活に必要な資産です。納税者本人か、納税者と同一生計でその年の総所得金額等が38万円以下の配偶者やその他の親族が所有しているものに限られます。

なお、保養などの目的で保有する別荘などの不動産や、1個または1組が30万円を超える貴金属、絵画、骨董は対象になりません。

2. どう計算?控除額の算出法

雑損控除の額は、次の1、2の計算式のうちいずれか多い方の金額となります。

  1. (差引損失額)-(総所得金額など)× 10%
  2. (差引損失額のうち、災害関連支出の金額)- 5万円

いきなり計算式だけ見ても、何のことかわかりにくいと思います。ここからは、災害によって損害が発生したことを前提に、控除額の算出方法について解説していきます。

2-1.まずは損害金額を算出

損害金額は、損害を受けた資産の時価をもとにして計算します。例えば、2,000万円で建てた家が、損害時に時価1,000万円になっていて、全壊したとすると、損害額は1,000万円です。部分的な被害の場合は、被害を受けた部分の時価がいくらになるかを算出します。

ただし、損害額を出そうとしても、損害を受けた部分について個々に損失額を計算することは困難な場合があります。そのようなときは、災害による損害であれば、国税庁が定める「損失額の合理的な計算方法」により求めることができます。

※なお、基準となる時価については、被害を受けた資産が減価償却資産の場合、取得価額から原価償却累積額相当額を控除した金額を基準とすることができます。

2-1-1. 取得価額が分かる場合の「合理的な計算方法」

災害により被害を受け、損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合で、取得価額がわかる場合は、以下のような計算式で損失額を計算します。ただし住宅については、「住宅の主要構造部に損壊がある」場合という条件が追加されます。

損失額 =(取得価額 - 減価償却費)× 被害割合

まず「取得価額」(購入したときの値段)から「減価償却費」(経年劣化による価値の減少を金額にしたもの)を引いて、最後に「被害割合」(全壊・半壊などの被害の程度に応じた掛け率)を掛けます。

減価償却費の算出方法や被害割合については、下記のサイトをご覧ください。

2-1-2. 取得価額が不明な場合の「合理的な計算方法」

住宅や家財については取得価額がわからないケースもあります。災害被害の程度が大きいほど、損害を受けた物の値段をひとつ一つ思い出すのは難しいことです。何十年も前に買ったものはいくらかわからないこともあります。また何代も前から住み続けている住宅や引き継いで使っている家財などは、そもそも自分が買ったものではないということもあるでしょう。

そのようなときは以下のような式で計算します。

(1)住宅の場合

損失額 =〔(1平米当たりの工事費用 × 総床面積)- 減価償却費〕× 被害割合

上記、1平米当たりの工事費用については以下のページをご覧ください。

(2)家財の場合

損失額 = 家族構成別家庭用財産評価額 × 被害割合

「家族構成別家庭用財産評価額」とは、以下の表のように、年齢と家族構成で簡易的に設定した家財の評価額です。

■家族構成別家庭用財産評価額

世帯主の年齢夫婦独身
~29歳500万円300万円
30~39歳800万円
40~49歳1,100万円
50歳~1,150万円

※大人(年齢18歳以上)1名につき130万円、子供(年齢18歳未満)1名につき80万円を加算

例えば、40代の夫婦に大学生の長女(19歳)と高校生の長男(16歳)という家族の場合、家財の財産評価額は1,100万円 + 130万円 + 80万円= 1,310万円。これに被害割合を掛けて、損失額を算出します。

以上、個々の損害額が出せない場合の計算方法について詳細は以下のページを参照ください。

2-2. 損失額がわかったら「差引損失額」を計算

損害額が出せたところで、いよいよ雑損控除の計算式にある「差引損失額」を算出します。

差引損失額 = 損害金額 + 災害関連支出 - 保険金などにより補てんされる金額

<手順1> 災害関連支出の加算
まず、さきほど算出した損失額に、「災害関連支出」を加えます。これは、災害で被害を受けた住宅や家財などの取り壊し・撤去・修繕のための費用、屋根からの雪下ろしや害虫の駆除といった家屋の倒壊を防ぐための費用などを指します。
災害ではなく盗難や横領により雑損控除を行う場合は、災害関連支出の代わりに損害を受けた資産の原状回復のために支出した金額を加えます。

<手順2> 保険金などの補てん金額の減算
次に、「保険金などにより補てんされる金額」、つまり災害に関連して受け取った保険金や損害賠償金等の総額をマイナスします。

これで、差引損失額が求められます。

2-3. 2つの計算式を使って控除額を算出

差引損失額が出たら、ようやく、この章の始めにお伝えした計算式に戻ります。

  1. (差引損失額)-(総所得金額など)× 10%
  2. (差引損失額のうち、災害関連支出の金額)- 5万円

実際に適用される雑損控除額は、上記、1、2の計算結果のうちいずれか多い方の金額です。

例えば、差引損失額が250万円、保険による補てん額が150万円、災害関連支出が100万円、総所得を500万円とした場合

  1. (250万円+100万円-150万円)- 500万円 × 10% = 150万円
  2.   100万円 - 5万円 = 95万円

となり、1の150万円が雑損控除の額となります。

また、損失額が過大で、その年の所得金額から控除しきれない場合には、3年間を限度に、翌年以降も繰り越し控除をすることができます。なお、雑損控除は他の所得控除に先立って(他の所得控除よりも先に)行うことになっています。

3. 雑損控除のためには申告が必要

続いて、実際に控除を行うための方法を解説します。
雑損控除を行うためには、確定申告が必要です。給与所得者で雑損控除のみを申告する場合などは「確定申告書A」、その他の税の申告等がある場合は「確定申告書B」を利用します。用紙は、国税庁ホームページからダウンロードするか、税務署や市区町村の担当窓口などで入手することができます。

記載するのは2箇所です。まず、各申告書の「第二表」雑損控除欄に以下の項目を記載します。

  • 損害の原因
  • 損害年月日
  • 損害を受けた資産の種類
  • 損害金額
  • 保険金などで補填される金額
  • 差引損失額のうち災害関連支出の金額

続いて「第一表」の雑損控除欄に、先ほど求めた控除額を記入します。災害関連支出については領収書の添付が必要です。また、給与所得者は源泉徴収票も用意しておきましょう。

4.「災害減免法」の適用を受ける選択肢もある

雑損控除と同じように、災害による資産の損害を補うための「災害減免法」という制度もあります。対象は、住宅や家財。損失額がその時価の2分の1以上の場合に適用されます。ただし、所得金額の合計が1,000万円を超える人には対象外です。

雑損控除は「所得控除」でしたが、こちらは税金そのものが割り引かれる「税額控除」。所得に応じて、所得税額の全額、もしくは一部が免除されます。

■災害減免法により軽減又は免除される所得税の額

所得金額の合計額軽減又は免除される所得税の額
500万円以下所得税の額の全額
500万円を超え750万円以下所得税の額の2分の1
750万円を超え1,000万円以下所得税の額の4分の1

制度の適用はその年限り。雑損控除のように、次年度以降に繰り返し控除を受けることはできません。また、雑損控除との併用もできません。どちらか有利な方を選ぶことになります。さらにいうと、災害減免法は所得税にのみ適用され住民税は対象外となります。

被害が甚大だった方や、所得の合計が500万円を超える方は、雑損控除のほうが有利になる場合が多いといわれていますが、ケースバイケースなのできちんと計算して比較した方がよいでしょう。。

5. まとめ:確定申告の期限は3月15日!忘れずに!!

ここまで、雑損控除のしくみや、控除額の計算方法などについて解説してきました。災害に遭われていない方でも、いざという時のために制度の存在を覚えておいてください。

2019年分の雑損控除の適用を受けようと考えている方は、3月15日までに必ず確定申告を行うようにしましょう。災害減免法についても同様です。ただし、会社員等の給与所得者で本来は確定申告が不要な方が雑損控除のみを申請する場合は、確定申告の時期に関わらず申告することができます(5年間)。

計算を含め難しいことが多いので、わからないことがあれば、管轄の税務署に相談してみてくださいね。

佐藤 史親 (編集者・ライター)執筆:佐藤 史親(編集者・ライター)
1987年山梨県富士吉田市生まれ。タウン紙記者、雑誌編集者として勤務後、フリーの編集者・ライターに。モットーは、きめ細かな取材・調査に基づいた記事づくり。お金に関する話題も、わかりやすくお届けします。

※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。

※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。