がん先進医療の粒子線治療(一部)が健康保険で受けられます!

2022-03-07

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厚生労働省が定める先進医療の中でも、特に高額な自己負担が必要となるのが粒子線治療(重粒子線治療と陽子線治療)ですが、2016年4月以降、一部のがん治療において健康保険が適用されるようになりました。

粒子線治療は、一定のがんの治療法として高い効果が期待されており、一部とはいえ先進医療から健康保険適用に移行したことは、うれしいニュースといえるでしょう。

ここからは、重粒子線治療・陽子線治療を健康保険で受けられるのは、どんながんのときなのか、そして、そもそもどんな治療であるのかをわかりやすく説明いたします。ぜひ参考にしてください。

1.重粒子線治療、陽子線治療の一部がついに健康保険適用に

平成28年4月と平成30年4月に、がん治療のための先進医療である陽子線治療と重粒子線治療について、それぞれ一部のがんに対する治療が健康保険の適用となりました。

保険適用となったがんは、切除非適応の骨軟部腫瘍、前立腺がんなどです。

その他のがんについては、保険適用が見送られていますが、継続して先進医療に認定されていますので、成果次第では今後適用される可能性は残っています。

治療適用される病気
重粒子線治療切除非適応の骨軟部腫瘍
頭頸部腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)
前立腺がん(転移のないもの)
陽子線治療小児腫瘍(固形の悪性腫瘍)
切除非適応の骨軟部腫瘍
頭頸部腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)
前立腺がん(転移のないもの)

1-1.切除非適応の骨軟部腫瘍

骨軟部腫瘍とは、骨腫瘍と軟部腫瘍を総称した呼び方です。
骨腫瘍は骨組織にできた腫瘍で、軟部腫瘍は筋肉・神経・脂肪・血管などの組織にできた腫瘍を指します。これらのうち悪性の腫瘍(肉腫)が該当します。たとえば骨肉腫などがそうです。

これらの腫瘍で、手術で切除することができないようなケースが健康保険での重粒子線治療に該当します。

2.健康保険適用で自己負担が200万円も安くなった

先進医療による治療は、たとえ適用が認められた場合でも健康保険がきかないため、治療費は全額自己負担となります。特に重粒子線治療と陽子線治療は、数ある先進医療のなかでも高額な治療法で、重粒子線治療は約300万円、陽子線治療は約280万円の自己負担が必要です。

このため、これらの治療に健康保険がきくようになると、自己負担額は3割ですむようになり、重粒子線治療は約90万円、陽子線治療は約84万円で受けられるようになります。

これでも高額な治療には変わりありませんが、自己負担額が200万円も少なくてすむのは大きなメリットですし、もし、金額の問題でこの治療をあきらめなければならないケースがあったとしたら、健康保険適用により治療の幅が広がることにつながるでしょう。

治療治療費3割負担分
重粒子線治療約300万円約90万円
陽子線治療約280万円約84万円

3.粒子線治療とは

重粒子線治療や陽子線治療などの粒子線治療とは、放射線治療の一種です。
通常の放射線治療では、X線やガンマ線などの放射線を治療に使いますが、重粒子線治療では炭素イオンを、陽子線治療では陽子(水素原子から電子を取り去ったもの)を病巣に照射します。

炭素イオンや陽子などというと、説明を聞くのも嫌になってしまいそうですが、簡単言うと、通常の放射線よりもパワーがあってがん細胞を攻撃する力が強い放射線です。しかも、がん細胞以外の正常な細胞へのダメージが少ないという特徴があります。

がんは体の内部にできますので、放射線をがん細胞に照射するときは、放射線はまず体の表面の皮膚にあたり、そこを通過してがん細胞にあたり、さらにがん細胞の裏側に抜けていきます。

通常の放射線は、がん細胞に届く前にパワーのピークがあるため、がん細胞に届く前の正常細胞へのダメージが大きくなってしまいがちです。しかし、重粒子線や陽子線は、正常細胞を通過した後、がん細胞に届くときにパワーのピークをあわせることができ、しかもがん細胞通過後は、再びパワーが小さくなるという特徴があります。

したがって、通常の放射線に比べると、ピンポイントでがん細胞に対して大きなダメージを与えることができ、正常細胞への影響を少なくおさえることができます。つまり、がんの治療効果が高く、体への負担(副作用など)も少ないということになるそうです。

粒子線治療のメリット

  • 副作用が少ない
  • 通院治療が可能
  • 通常の放射線で治療しにくいがんへも適用できる
  • 治療期間が短い(がん細胞への殺傷能力が高いので)

ただし、粒子線治療の対象となるには以下のような条件があります。

粒子線治療適用の条件

  • 他の臓器に転移がなく、狭い範囲にとどまっている固形のがん
  • 対象のがんに対して、過去に放射線治療を受けていない

また粒子線治療は、重粒子線や陽子線を発生させるために加速器という大型の施設が必要で、治療できる施設が限られたり治療費が高くなったりすることがデメリットとなります。さらにいうと、先進医療が適用と判断される条件は厳しく、実際に治療を受けられるケースは少ないという現状もあります。

4.先進医療とは?

次に、粒子線治療が該当している先進医療について簡単に説明します。

先進医療とは、新しい治療法などで、将来、健康保険の適用にするかどうかを判断する段階にあるもので、一般の保険診療と併用して受けることができると認められているものです。

日本では、原則、保険診療と保険のきかない自由診療を併用すること(いわゆる混合診療)はできず、自由診療を受けたときは、保険診療に該当する治療も全額自己負担となりますが、先進医療はその例外として併用することができます。

<先進医療> ※厚生労働省WEBサイトより抜粋

厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。 具体的には、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用ができることとしたものです。

つまり、今後、健康保険の適用範囲に含めるかどうか、その効果をテストしている治療法なので、治療効果が認められれば健康保険適用になる可能性があるということです。

したがって、令和4年2月1日現在、先進医療は81種類ありますが、今後あらたに先進医療に含まれてくるものもあれば、先進医療から外れていくものもあり、その数は常に変わっていきます。

また、テスト中ということについて逆の見方をすれば、確実に治療効果があると認められている治療法ではないともいえます。

先進医療というと、夢の治療法といったイメージを抱きがちですが、先進医療を受けたらからといって、治療困難な病気が確実に治るとは限りませんし、粒子線治療などでも、症例によっては通常の放射線治療や外科手術、化学療法などの方が適しているということもありえます。その点は理解しておいたほうがよいでしょう。

先進医療の種類については以下の厚労省のサイトで確認できます。
先進医療の各技術の概要(厚労省)

5.先進医療のための保険

医療保険やがん保険には先進医療特約があります。今回説明した重粒子線治療や陽子線治療は、治療費が300万円にもおよぶ治療法なので、このような特約で備えておくことは有効といえるでしょう。

保険会社や保険商品によって違いはありますが、先進医療特約の月額保険料は100円程度なので、わずかな負担で万一に備えられます。

ただし、これまで説明してきたように、先進医療として認定されている治療法は常に変わっていきますので、将来も重粒子線治療や陽子線治療が先進医療であり続けるかどうかは何の保証もないということは知っておきましょう。

とはいえ、先進医療特約は決して意味がないわけではなく、粒子線治療がまだまだ先進医療である現段階では、十分に検討に値する保障です。

6.まとめ:先進医療とはこれから保険適用される治療法の候補

今年から、小児腫瘍(がん)や切除が困難な骨軟部腫瘍について、健康保険で粒子線治療を受けられるようになっています。これらの病気の方、今後そう診断される方は、治療の候補として検討してみるとよいでしょう。

また先進医療は、今回、重粒子線治療や陽子線治療の一部が保険適用されたように、今後、健康保険の適用範囲に含むかどうかを判断している治療法です。粒子線治療がその他のがんにも適用されることがないか、粒子線治療以外の先進医療なども保険適用になることがないかなど、ニュース報道などにも気を配っておくとよいでしょう。

※本記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています。

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※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。