傷病手当金の活用マニュアル|簡単にわかって申請できる!

2022-03-31

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会社員や公務員等の給与所得者のみなさん、病気やけがで働けなくなり給料がもらえない状態になったときに「傷病手当金」をもらえることをご存じですか?

「傷病手当金」とは病気やけがによる休業中の生活を保障するために設けられた制度で、給料の2/3の金額を最大で1年6ヵ月の間、受け取ることができます。

意外と知られていませんが、この傷病手当金は健康保険や共済組合の給付の一つなので、会社員や公務員なら誰もが利用できますし、派遣やパートの人でも健康保険に加入していれば利用が可能です。

民間の保険会社でも、所得補償保険や就業不能保険など、働けないときの給料をサポートする保険を販売していますが、給与所得者なら既にそのような保険に加入しているのです。

この制度のことをわかっていて、それでは足りない部分を民間の保険で補うのはよいのですが、もし傷病手当金のことを知らずに民間の保険に入ってしまうと、保障がダブってしまいムダな出費になってしまうということもあります。

今回は傷病手当金について、その支給条件や期間、支給が停止されるケースから具体的な申請方法・申請時の注意点までをわかりやすく紹介していきます。もし就業不能になったらという不安がある人も、ない人も、絶対に知っておいたほうがよい制度です。ぜひ参考にしていただき、何かあったときに上手に活用できるようになってください。

1. 傷病手当金とは

傷病手当金は、公的な医療保険である健康保険・共済組合等の給付の一つで、病気やけがのために会社や役所等を休み、給料を受けられないときに一定のお金が支給される制度です。
※傷病手当金は国民健康保険にはないため、自営業者や個人事業主が働けない場合には該当しません。

1-1. 支給される4つの条件

傷病手当金が支払われるのは、以下の4つの条件を満たした場合です。

(1)業務外の病気やけがの療養のための休業である

病気やけがの治療で医師の指示により会社等を休んでいる場合が該当します。医師の指示があれば、入院でなく自宅療養でもかまいません。うつ病などの精神疾患も対象となります。

ただし、業務上や通勤中の事故などによる病気やけがは対象となりません(労災保険の対象となるため)。また、美容整形などの病気以外の療養も対象外となります。

(2)仕事につくことができない状態である

病気やけがにより、今までしていた仕事ができない状態であるときが該当します。就業できないことについては医師の証明が必要です。

(3)4日以上(連続する3日を含む)休んでいる

3日連続で休んだ後の4日目以降の休業日が支給対象となります。はじめに連続して3日間休むことが必要で、その3日間を待期期間といいます。待期の3日間には、土日・祝日などの公休日や有給休暇を含めることができます。また、一度待期が成立すると、その後は間に出社日があってもかまいません。

待期3日間の例

(4)休んだ期間に給料の支払いがない

待期完成後の休業日のうち、給料が支払われていない日が対象となります。ただし、給料の支払いがあったとしても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。

1-2. 支給される期間

傷病手当金が支給される期間は、待期が成立し、傷病手当金の支給が開始されてから通算で1年6ヵ月となります。
この期間内に仕事に復帰できたときは、その前日までで支給は終わります。しかし、途中で一時的に復帰できた後、また同じ病気やけがで働けなくなった場合は、出勤して給料の支払があった日を除き、再度休業となった期間も支給対象となります。

1-3. 支給額

支給される傷病手当金の額は、それまでの月給のおよそ2/3となります。

<1日あたりの支給額(計算式)>

1日あたりの支給額(計算式)

ちなみに、標準報酬月額とは、健康保険の保険料を計算するための基礎となる1月あたりの報酬の額で、1ヵ月の報酬額を50等級に区分したものです。詳しくはこちら(協会けんぽサイト)をご覧ください。

1-4. 支給が調整される場合

傷病手当金は、同時にその他の社会保障制度からの手当や給付を受けているときは、支給が停止されたり額が削減されるなどの支給調整があります。

支給調整の対象となる他の給付

  • 出産手当金
    傷病手当金を受けているときに、出産により出産手当金も受けられるようになった場合等が該当します。

  • 障害厚生年金、障害手当金
    傷病手当金を受けているときに、同じ病気やけがで障害年金の障害等級の認定を受けた場合等が該当します。

  • 老齢年金
    定年近くで傷病手当金を受けはじめて、退職後も引き続き傷病手当金を受けているときに、老齢年金の受給が始まった場合等が該当します。

  • 労災保険の休業補償給付
    労災保険の休業補償給付を受けているときに、さらに業務外で別の病気やけがをして仕事につけなくなった場合等が該当します。

傷病手当金とあわせて上記給付等を受けられるときには、傷病手当金は支給されません。ただし、それらの給付の金額が傷病手当金の額よりも小さい場合は、傷病手当金との差額が支給されます。

2. 傷病手当金は途中で退職しても継続できる!

傷病手当金は、会社を休んで給料がない期間に支給される手当ですが、支給期間中に会社等を退職することになった場合でも、就業不能な状態が続いていれば引き続き支給を受けることができます(支給開始日から通算で1年6ヵ月)。
ただし、退職の日の前日までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あることが条件となります。

なお、この継続給付中に一度でも仕事につくことができる状態になった場合は、その時点で傷病手当金の支給は終了します。

長期間、仕事を休まなければならないような状況になると、そのまま退職せざるをえないこともあると思いますが、そのような場合でも引き続き傷病手当金の支給を受けることができるのは、とてもありがたいことです。

3. 傷病手当金のメリットのまとめ

これまでみてきたように傷病手当金には、多くのメリットがあります。制度の説明が続いて、わかりにくいところもあったと思いますので、ここでそのメリットをおさらいしておきましょう。

<傷病手当金のメリット>

  • 会社員や公務員等なら誰でも利用できる(健康保険には既に加入済み)
  • 健康保険に加入していれば派遣やパート社員でも利用できる
  • 働けない状態なら病気やけがの内容は問われない(うつ病などの精神疾患もOK)
    ※ただし、労災や美容整形とは除く
  • 支給途中で退職しても、もらい続けることができる

4. 傷病手当金の申請方法

傷病手当金の良さがわかったところで、申請手続きについておさえておきましょう。
基本的には、働くことができないこと、傷病手当金を申請したいことを会社等に伝えることから始まり、人事や総務などの健康保険の担当者を通して、申請を進めることになります。

4-1. 申請するタイミング

傷病手当金は、実際に休業したあとに事後申請するのが原則です。したがって、休業期間が数日~1ヵ月以内であれば復帰してからの申請となります。

ただし、休業期間が長期間になる場合は、それではずっとお金がもらえないことになり困ってしまいます。長期間の休業の場合は、一定期間休業したところで、それまでの休業日数分について分割して申請していきます。健康保険組合などでは1ヵ月ごとの申請を推奨しているところが多いようです。

4-2. 申請の手順

傷病手当金の申請手順は、一般的には以下のような流れになります。

(1)勤務先に傷病手当金を申請したい意思を伝える

病気やけがで長期間休まなければならなくなった時点で、会社にそのことを報告すると思いますが、そのときに、傷病手当金を受けたいということをあわせて伝えましょう。勤務先の方から傷病手当金を案内してくれることもありますが、教えてもらえない場合もありますので、早めに自ら申請の意思を伝えるようにしましょう。

(2)申請に必要な書類を受け取る

申請書類一式は、勤務先の健康保険担当者を通じてもらうか、そうでないときは、自分で健康保険の被保険者から入手します。協会けんぽや健康保険組合のWebサイトからダウンロードできる場合が多いでしょう。書類の書式等は、健康保険の被保険者ごとに違っています。

(3)申請書類に記入する

傷病手当金の書類には、自分で記入するところ、働けないことの証明として担当医師が記入するところ、勤務状況や収入の証明として会社等の勤務先が記入するところがあります。
また、状況によってはその他の添付書類が必要となる場合があります。

・申請書の例はこちら(協会けんぽの場合)

(4)申請書類を提出する

申請書類の記入が終わったら、健康保険の保険者に提出します。勤務先で提出してくれる場合は、(3)の勤務先記入欄の依頼とあわせてお願いするとよいでしょう。
自分で提出しなければならない場合は、保険者の事務所に持参するか郵送することになります。

4-3. 申請上の6つの注意点・ポイント

傷病手当金を申請するにあたっては、以下のような6つのポイントを知っておくと良いでしょう。

(1)有給を使うか傷病手当金を使うかの判断が必要

傷病手当金は、3日以上連続して休業した後の4日目から支給されますが、その4日目以降に有給休暇を利用した場合は、その期間は支給されません。ただし、傷病手当金は原則給料の2/3の金額なので、有給休暇が余っている場合はあえて有給休暇を使って給料を受けた方が受け取れる金額が大きい場合があります
休業する日数や有給休暇の残り日数をみて、得するほうを選択してください。

(2)休業した期間は待期期間も含めて記入する

申請書には休業期間を記入する欄があります。傷病手当金が出るのは待機期間が明けてからですが、ここでは待期期間も含む実際に休業した期間を記入します。

(3)休業した期間は土日などの休日も含む

同じく休業期間の記入に関してですが、たとえば、働くことができない期間の最終日が日曜日で、翌月曜日から仕事に復帰する場合は、休業期間の終了日は日曜日と記入します。傷病手当金は、働けない状態であるなら土日や祝日なども支給対象となるからです。

(4)働けない見込みではなく実績で申請する

傷病手当金は、実際に働けなかった日数について支給される制度です。担当医師から事前に、働けないであろう期間(見込み)を知らされていても、その証明をもらって申請することはできません。基本的に事後申請となります。

(5)申請の都度、療養担当者(病院の担当医師)の証明が必要

長期間の休業で分割して申請する場合には、その都度、担当医師の証明が必要です。

(6)傷病手当金の時効は2年

傷病手当金には時効があり、働けなかった日ごとに、その翌日から2年が経過すると傷病手当金を受ける権利が消滅します。休業を開始した日から2年以内に申請してください。
また、この時効について見方を変えると、過去2年間に傷病手当金を受け取れる状況にあったのに、申請していなかった人は、これからでも申請できるということになります。もし、心当たりがある人は、これからでも申請を検討してみるとよいでしょう。

5. 民間の所得補償保険・就業不能保険は必要か?

民間の保険会社でも、病気やけがで働けなくなったときの収入を補う保険を販売しています。これらの保険は、傷病手当金のない自営業者や個人事業主の人には重要な保険だと思いますが、傷病手当金のある会社員や公務員であれば、原則、必要性は高くありません。なぜなら傷病手当金があれば、最低限生活はできるからです。

したがって、民間の保険に入るとすれば、傷病手当金ではカバーできないケースに備えたいときということになります。

それには大きく2つのケースが考えられます。

(1)金額が足りないケース
1つは、傷病手当金では金額が足りなくて生活できないというケースです。家族がいて住宅ローンがあって貯蓄もない、月々の収支もぎりぎりという生活をしているような人などが考えられます。

(2)支給期間が足りないケース
もう1つは、一生寝たきりなどになってしまった場合に、1年6ヵ月で傷病手当金が打ち切られた後の保障が必要だと思うケースです。

それらのようなケースで、傷病手当金では足りない部分を補いたいという場合は、民間の所得補償保険などを活用してもよいでしょう。ただし、一般的に民間の保険ではうつ病などの精神疾患には備えられません。

民間の所得補償保険や就業不能保険の加入を検討するときには以下の記事が参考になります。
・「所得補償保険に入る前に知っておくべき活用法
・「就業不能保険は必要?上手に選ぶポイントをチェック!

6. まとめ:傷病手当金は、会社員なら絶対に知っておくべき制度

傷病手当金は、会社員や公務員なら誰もが加入している健康保険の給付制度で、病気やけがで働けずに給料がもらえないときに、給料の2/3の金額を通算で1年6ヵ月間受け取ることができる制度です。わざわざ自分で民間の保険に入らなくても、既に働けない場合に備えられる保険には入っているのです。しかも、うつ病などの精神疾患のときでも給付を受けることができます。

通常は、そのような状況になれば勤務先からも知らせてもらえるとは思いますが、場合によっては連絡漏れや何かの不備で知らせもらえないことがあるかもしれません。傷病手当金のことを知らなかったために申請ができず、本来もらえるお金をもらえなかったということになったら大きな損です。会社員等の給与所得者なら、もしものときに備えて絶対に知っておくべき制度だといえます。

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※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。