自転車保険|義務化でもいらない理由&ホントに必要な補償

  • 公開日:2016年09月16日
    最終更新日:2021年11月24日
  • 損害保険

2021-11-24

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自転車保険の義務化は、2015年に兵庫県で導入されて以降、大阪府や滋賀県が続き、徐々に全国に広がってきました。2020年にはついに東京都でも導入され、努力義務の道県を含めると、既に都道府県の半数以上で自転車保険に関する条例が制定されています。

しかし、このような動きがあっても、実は「自転車保険に入らない」という選択をすべき人が多いのです。

なぜなら、義務化されたからと安易に自転車保険に入ってしまうと、無駄になってしまうことがあるからです。

ここでは、世に言われている自転車保険義務化の本当の意味、入らなくてよい理由、必要な補償や正しい保険の入り方まで、徹底的に解説していきます。余計な保険に入らないために、ぜひ参考にしてください。

1. ぜひ知っておくべき義務化された理由

自転車保険義務化を正しく理解するにあたって、まずは、義務化されるに至った理由を知っておきましょう。義務化された大きな理由の一つとして、自転車が加害者となる事故の増加と1億円近い高額な賠償責任を負う判例が出てきたことがあげられます。

1-1. 自転車が加害者になった事故での高額賠償の判例

自転車事故で、自転車が加害者となり被害者が死傷した場合、自転車の運転者が損害賠償責任を負うことになります。近年は、裁判で高額な賠償金を請求される判決が出ています。

なかでも、2013年に小学生の子供が起こした事故で親が1億円近い賠償責任を負った神戸地裁の判決は大きな話題となりました。全国初の自転車保険義務化が兵庫県だったことは、この判例の影響も大きかったのではないでしょうか。

■自転車が加害者となった高額賠償の判例

賠償額事故の概要判決
9,521万円男子小学生(11歳)が、夜間、自転車で帰宅中に、歩道と車道の区別のない道路で歩行中の女性(62歳)と正面衝突した。女性は頭蓋骨骨折等の傷害により意識が戻らない状態になった。神戸地方裁判所
2013年7月4日判決
9,266万円男子高校生が、昼間、歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突した。男性会社員には言語機能喪失等の傷害が残った。東京地方裁判所
2008年6月5日判決
6,779万円男性が、夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさず走行し、交差点で横断歩道を横断中の女性(38歳)と衝突した。女性は脳挫傷等で3日後に死亡した。東京地方裁判所
2003年9月30日判決

(出典)一般社団法人 日本損害保険協会WEBサイトより

このような高額な賠償責任を負ってしまった場合、一般の個人では簡単に負担することはできません。加害者には、もちろん事故を起こした責任がありますが、保険によりすみやかに賠償金を支払うことができれば被害者救済にもつながります。

自分が加害者になってしまったときのことを考えると、高額賠償に備えた保険は必要だといえます。

1-2. 自転車対歩行者事故の増加

ここ数年、自転車事故が注目されるようになった背景の一つに、全交通事故の件数が減少傾向にあるなか、自転車対歩行者の事故が増加していたということがあります。

■10年前との事故件数の比較(全交通事故および自転車対歩行者事故)

10年前との事故件数の比較(全交通事故および自転車対歩行者事故)

(出典)国土交通省 政策レビュー結果「自転車交通」より

また、さらに詳細な統計データをみると、自転車の交通事故のなかでも、対自動車や対二輪車、対自転車の件数は減少傾向にあり、対歩行者の事故だけが違った傾向になっています。

自転車は、以前は交通事故においては弱者という立場でしたが、近年は加害者にもなっているということがわかります。

2. 義務化でも自転車保険がいらない2つの理由

ここまで、自転車保険義務化の動きや自転車事故の加害者になったときの補償の必要性を説明してきましたが、それでも安易に自転車保険には入らないほうがよいと主張するのは、以下の2つの理由からです。

2-1.[理由1]実は、義務化されたのは自転車保険ではない!

ニュースやWEB上の情報などでは、自転車保険が義務化されたと言っています。この記事でもそのように説明してきました。しかし、自転車保険を義務化した、いくつかの自治体のルールをよく確認してみると、義務づけたのは「自転車事故に対応できる賠償責任保険」です。
国土交通省の標準条例でも、「自転車損害賠償責任保険」という言い方をしています。

この義務化された保険とは、自転車事故を起こして誰かをケガさせてしまったり、誰かのモノを壊してしまったりして損害賠償責任を負ったときに、賠償金を補償をしてくれる保険のことを指します。

一方、一般的に売られている「自転車保険」は、上記補償に加え、義務化されていないその他の補償が組み合わされたセット商品になっています(詳しくは次節で説明)。つまり、自転車保険に入ると、義務化されていない保険にまで入ることになるという訳です。

2-2.[理由2]自転車保険には既に入っているかもしれない

義務化されたのは自転車保険という商品ではないということは、おわかりいただけたと思います。

しかし、仮に自転車保険が必要だったとしても、実は、あなたは既に自転車保険(に該当する保険)に入っている可能性があります。

それがどういうことか理解していただくために、まずは自転車保険の補償内容を説明します。

2-2-1. 自転車保険は、傷害保険と個人賠償責任保険を合わせたもの

ここ何年かで増えてきた自転車保険という保険商品は、実は、これまでになかった新しい保険ではなく、以前からあった傷害保険と個人賠償責任保険の2つを基本補償として組み合わせた保険です。

ちなみに、傷害保険は、自転車に乗っている人が事故でケガをしたときなどに治療費が補償される保険で、個人賠償責任保険は、他人を死傷させたり他人の物を壊したりして損害賠償責任を負ったときに賠償金が補償される保険です。これらの保険なら知っているという人も多いのではないでしょうか?

このうち義務として求められているのは個人賠償責任保険です。傷害保険のほうは義務化されておらず、生命保険と医療保険に入っている人であれば必要性は低いです。

2-2-2. 傷害保険と個人賠償責任保険なら既に入っている可能性がある!

傷害保険や個人賠償責任保険であれば、あなたも既に入っているのではありませんか?

(1)傷害保険の世帯加入率は61.3%

少し前の統計データになりますが、傷害保険の世帯加入率は61.3%(*)となっています。
(*)一般社団法人 日本損害保険協会「損害保険に関する全国調査(2001年)」より

実際に過半数の世帯で加入している保険です。特にスポーツをしている人などは既に加入しているのではありませんか?また自分では意識していなくても、実は会社等で団体扱いの保険に加入していたり、家族の誰かが家族型の傷害保険に加入しているということもあるかもしれません。

(2)個人賠償責任保険にも入っている可能性あり

個人賠償責任保険は、通常は単独の保険商品として販売されていないため、火災保険、自動車保険、傷害保険などにセットされているか、特約として加入するものです。また、それらの保険に付加した個人賠償責任保険の補償は、一般的に家族全員が補償の対象になります。

したがって、自分では入っていないつもりでも意外に補償対象になっている可能性があります。

いかがでしょう?
家庭内の保険を確認してみると、自転車保険と同じ補償の保険に既に入っている可能性はかなり高いはずです。特に、義務化の対象となっている個人賠償責任保険は、通常、家族全員が補償対象なので、自分自身が加入していなくても世帯で一つ加入していれば、新たな保険は不要となります。安易に自転車保険に入るのはやめましょう。

3. 損害保険は二重に入っても意味がないので要注意!

もしあなたが、傷害保険や個人賠償責任保険に既に加入しているなら、自転車事故に備えようとして新たに自転車保険や個人賠償責任に入って補償がダブってしまうのは無駄なことです。

生命保険や医療保険であれば、同じような保険に2つ入っていても、それぞれの保険から保険金や給付金を受け取ることができます。しかし、損害保険商品は同じ保険に2つ加入していても、保険金は一方からしか受け取ることができないからです。

たとえば、Aさんが火災保険の個人賠償責任保険(1億円)と自転車保険の個人賠償責任保険(2億円)に入っているとします。自転車事故で第三者にケガをさせて1,000万円の損害賠償をしたとすると、Aさんは両方の保険から1,000万円ずつ受け取れるのではなく、どちらかの保険から1,000万円受け取れるだけで、もう一方の保険からは1円も受け取れません。

だから、同じ保険に二重に入るのは全くの無駄でしかありません。傷害保険や個人賠償責任保険は二重になりやすいので特に注意が必要です。

4. 自転車に乗らなくても入るべき個人賠償責任保険の3つのメリット

自治体で義務化された保険は、自転車保険ではなく個人賠償責任保険だという話をしましたが、この個人賠償責任保険は、自転車に乗らない人にもぜひ加入していただきたいほどメリットがある保険です。

4-1.自転車に限らず日常生活の賠償責任に備えられる

個人賠償責任保険は、自転車事故以外でも日常生活で第三者に損害を与えてしまい法的な損害賠償責任がある場合に幅広く対応できます。

例えば、以下のようなケースで損害賠償責任を負ったときなどに補償されます。

  • マンションの水漏れで下の部屋に迷惑をかけてしまった
  • こどもが駐車場の高級車に傷をつけてしまった
  • こどもが遊んでいて友達にケガをさせてしまった
  • ショッピング中にお店に展示されていた高価な壷を壊してしまった
  • スキーで人にぶつかりケガをさせてしまった
  • 犬を散歩させていたら、通行人にかみついてケガをさせてしまった

※一部の自転車保険や自動車保険に付加される個人賠償責任保険では、補償される範囲が限定されている場合があります。

4-2. 家族全員が補償される

個人賠償責任保険は、家族の誰かが加入すれば、基本的に家族全員が補償されます。火災保険などに付加しておけば、お父さん、お母さん、こども、おじいちゃん、おばあちゃんなど、同居の家族や実家を離れて大学等に通っている(仕送りを受けている)未婚の学生も補償されます。

4-3.保険料が割安

個人賠償責任保険は、火災保険や自動車保険、傷害保険などに特約として付加する保険ですが、その特約保険料は月額100~200円程度です。

割安な保険料で、家族全員の日常生活における幅広い損害賠償責任に備えることができるので入っておくとよい保険です。特にこどもがいる家庭にはおすすめです。

5. 自転車事故に備える保険の入り方

あなたが自転車保険の義務化を受けて、あるいは自転車事故のリスクに備えて自転車保険に入ろうと思ったときは、まず既存の保険をチェックして、自転車事故に対応できる保険に入っているかどうかを確認してください。そして、その結果に応じて加入する保険を選ぶようにしてください。

5-1. まずは自転車事故に対応できているかどうかの保険チェック

家族の誰かが、火災保険、自動車保険、傷害保険に加入している場合はその補償内容についてチェックします。必ず家族全員分の保険を確認してください。

もし個人賠償責任保険に加入していたら、自転車保険の義務化には既に対応できていますので、ケガへの補償が必要なければ新たに保険に入る必要はありません。ただし個人賠償保険の保険金が少ないときは、1億円程度に増額が必要です。

5-1-1.火災保険のチェック

持ち家の人は建物への火災保険に加入していると思いますが、賃貸の人でも不動産会社で契約するときに、大家さんへの損害賠償や家財の補償のために火災保険に加入しているのではありませんか?

このような火災保険に、個人賠償責任保険がセットされていたり特約としてつけていたりする場合がありますので、必ずチェックしてください。

5-1-2.自動車保険のチェック

自動車を所有している家庭の場合は、自動車保険に個人賠償責任保険を特約としてつけているかどうかをチェックしてください。

5-1-3.傷害保険のチェック

自分が傷害保険に入っているか、家族の誰かがファミリータイプの傷害保険に入っている場合は、傷害保険に個人賠償責任保険を特約としてつけているかどうかをチェックしてください。

自転車保険義務化への対応チェック

5-2. 加入済の保険別、適切な保険の入り方

前節の確認の結果、個人賠償責任保険に入っていなかった場合は自転車保険の義務化をクリアできていません。以下の2つのケースにしたがって、個人賠償責任保険に加入するようにしましょう。

<ケース1> 火災保険・自動車保険・傷害保険のいずれかに入っている場合は特約を付加
家族の誰かが、火災保険・自動車保険・傷害保険のいずれかに入っている場合は、それらの保険に個人賠償責任保険を追加するとよいでしょう。その際の保険金は、高額賠償の判例を考慮すると1億円程度はほしいところです。

個人賠償責任保険には、以下の1~3の優先順位でご加入ください。

  1. 傷害保険に付加
    傷害保険に加入している場合は、傷害保険に個人賠償責任保険を付加します。自転車に乗る本人が傷害保険に加入していたなら、これで自転車保険に加入したのと同じことになります。
     ↓
  2. 火災保険に付加
    傷害保険に加入していなくて火災保険に加入している世帯の場合は、火災保険に個人賠償責任保険を追加します。
     ↓
  3. 自動車保険に付加
    傷害保険にも火災保険にも加入していなくて自動車保険に加入している世帯の場合は、自動車保険に個人賠償責任保険の特約があれば追加します。もし特約がなければ自転車保険にご加入ください。

<ケース2> 火災保険・自動車保険・傷害保険のどれにも入っていない場合は自転車保険
火災保険、自動車保険、傷害保険のどれにも入っていない世帯の場合は、自転車保険に入るのが手軽でよいです。

ただし、自転車保険の中には傷害補償を交通事故だけに限定しているものや個人賠償責任保険の対象を加入者だけに限定しているものがあるので、その補償内容でよいのか補償範囲を確認して保険を選ぶようにしましょう。

6. まとめ:個人賠償責任保険があれば、自転車保険に入らなくても義務化には対応

自転車保険が義務化されたり、加害者になってしまったときのリスクを考えて保険に入る場合でも、必ずしも自転車保険に入る必要はありません。一番必要なのは自転車保険ではなく個人賠償責任保険だからです。

しかも、個人賠償責任保険は既に加入している場合がありますので、あわてて自転車保険に入らずに、まずは個人賠償責任保険に加入しているかどうかを確認することが大切です。

個人賠償責任保険は、自転車事故だけでなく日常生活で賠償責任が生じた場合に広く対応でき、家族全員が補償対象となります。保険料も割安でおすすめな保険です。自転車に乗ることがないような人もぜひご検討ください。

※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。

※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。