かんたん保険診断

3億円事件と再保険

  • 公開日:2019年04月30日
    最終更新日:2022年04月06日
  • 保険の知識

2022-04-06

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戦後最大の未解決事件として知られる3億円事件。発生から50年以上が過ぎた今でも、犯人像や盗まれた現金のゆくえをめぐって、さまざまな憶測が飛び交っています。昨年の8月には、実行犯を名乗る人物が小説投稿サイトに掲載した告白文が話題になり(のち、小説として出版)、若い世代にも事件に興味・関心を持つ人が増えてきました。

3億円事件は、日本国内で金銭的な被害を出さなかった事件としても有名です。その背景には保険の存在がありました。

事件のウラに保険あり!?3億円事件と保険の関連についてみていきましょう。

1.3億円事件の概要

1968(昭和43)年12月10日、東京都府中市の路上で、白バイ警官を装った犯人が、現金2億9434万1500円を積んだ現金輸送車(ニッサンセドリック)を奪い去りました。現金輸送車は日本信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)国分寺支店のもので、東京芝浦電気(現・東芝)府中工場の従業員に支給されるボーナスを運搬していました。

犯人は「車に爆弾が仕掛けられているかもしれない!」と告げて運転手ら4人を降車させ、爆弾に見せかけるために発煙筒をたき、4人が遠くに逃げた隙に車を奪いました。その後、現金の入ったジュラルミンケースをトヨタカローラに積み替えて逃亡したのです。

にせの白バイには多数の遺留品があったため、早期の事件解決が期待されましたが、犯人逮捕には至りませんでした。捜査は難航を極め、事件発生から7年後の1975(昭和50)年に公訴時効を迎えました。

2.被害額は保険でまかなわれた

当時の3億円は、現在の価値にすると、20億円~30億円といわれています。事件のあった1968年は、宝くじの1等賞金が1000万円の大台を超えたことが大きな話題になりました。このことと比較しても、3億円がいかに巨額であったかがわかります。

盗難があったにもかかわらず、府中工場の従業員たちには翌日ボーナスが支払われました。銀行が盗まれた現金に保険をかけていたため、損失を保険金でまかなうことができたのです。また、保険会社は別の保険会社と再保険契約を結んでおり、その保険会社はさらに海外の保険会社と再々保険契約を結んでいました。最終的には、海外の保険会社が損害額を負担したため、国内で金銭的な損害をこうむった人は誰もいませんでした。

凶器を用いることなく犯行をおこない、複数の車両を巧みに使い分けて逃亡し、国内では金銭的な損害がなかった、という鮮やかな手口から、当時は犯人を英雄視する向きもありました。

3.再保険とは

わたしたちは、死亡や火災、自動車事故といった万が一の事態に備えて保険に加入しています。保険に加入することで、もしもの場合の経済的な負担が軽減されます。同じように、生命保険や火災保険、海上保険などの保険会社も、万が一の事態に備えて保険に加入しています。これを再保険といいます。

大規模災害や巨大事故などで巨額の保険金請求が発生すると、その支払いで保険会社の経営が悪化するおそれがあり、最悪の場合は倒産してしまいます。このような保険会社単独では負担しきれないリスクに対応するために、保険会社(元受)は複数の保険会社(再保険会社)と再保険契約を結ぶことによって、支払いリスクの全部または一部を引き受けてもらっています。再保険会社は、さらに別の再保険会社と再々保険契約を結び、引き受けるリスクを小さくします。

■再保険のしくみ

巨額のリスクに対応するために、再保険市場にはクモの巣のようなネットワークが張り巡らされており、世界中の何十、何百もの数の再保険会社が関わることもあります。再保険は、保険会社の経営の安定化を図るためになくてはならないものなのです

3億円事件の犯人がどのような人物だったのかはわかりませんが、再保険のしくみを熟知した計算ずくの犯行だったのであれば、「かなり金融事情に詳しい人物」という線もありえるかもしれません。保険というフィルターを通して3億円事件を紐解くと、犯人像や犯行の動機がより複雑なものに見えてくるのは気のせいでしょうか。

4.おまけ:3億円事件と給与振込

3億円事件は、人々の暮らしにも変化をもたらしました。事件をきっかけに、国内で「現金輸送は危険だ」という考えが浸透し、口座振込への関心が急速に高まりました。民間企業では給与振込制度が普及し、数年後には国家公務員にも導入されました。銀行の窓口業務も大きく様変わりしたことでしょう。現在では給与振込が当たり前になっていますが、もしも事件が起こらなければ、ずっと現金支給が続いていたかもしれません。

2018年以降、国内ではキャッシュレス化への取り組みが加速しました。お金は電子データとなり、web上で管理される時代になりました。3億円事件から50年後という節目の年に、現金を使わない支払いが台頭してくることに、因縁めいたものを感じてしまいます。

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